Google Antigravity と ProtNLM が新規抗菌ペプチド候補を発見

Google DeepMind は、エージェント型開発プラットフォームである Google Antigravity が、データベース検索、新規性チェック、構造解析、ゲノムコンテキスト、文献統合、ウェットラボ計画を含む抗菌ペプチド(AMP)発見ワークフローを、1回のセッション内でエンドツーエンドに実行できることを示す技術ウォークスルーを公開しました。このワークフローは、呼吸器感染症に関与する病原体に対して予測活性を持つ新規バクテリオシン候補を生み出し、現在この候補はウェットラボでの検証が進められています。

発表内容

今回の発表は、新しいモデルのリリースではなく、実証された科学的ワークフローです。Google Antigravity は、生物学者がターゲットを迅速に発見、構造評価、優先順位付けできるようにする「エージェント型科学ワークベンチ」を提供し、従来は複数のデータベースにまたがる断片的な検索だったものを1回のセッションに圧縮します。また、この投稿では、Antigravity に直接組み込まれた3D可視化ツールである Biomolecular Structure Viewer も紹介されています。

この研究は、2026年10月15日に DeepMind の Science カテゴリで、Pengfei Tian、Maxwell L. Bileschi、Zoi Tsangalidou、Sukhdeep Singh、Lucy J. Colwell によって公開されました。

抗菌ペプチドが重要な理由

この投稿では、抗菌薬耐性は最も差し迫った世界的な健康危機の1つであり、対策が講じられなければ2050年までに年間1000万人の死亡が推定されると述べられています。抗菌ペプチド、特にバクテリオシンは、細胞エンベロープから必須の細胞内機構に至るまで、競合細菌の根本的な脆弱性を標的とするように自然に進化してきたため、病原体が耐性を獲得することが困難であり、従来の抗生物質に代わる有望な選択肢として提示されています。

ゲノムおよびメタゲノムシーケンシングにより、世界中のデータベースには数十億の天然アミノ酸配列が蓄積されています。このプールからは、Nisin などの世界的に使用されているバクテリオシンに加え、Darobactin、Dynobactin、Lariocidin などの最近のゲノムマイニングによる画期的な発見も生まれています。しかし、多くの候補は、既知のタンパク質と類似していないため、タンパク質データベースの注釈が付けられていない「ダークマター」に閉じ込められたままです。

ProtNLM:生配列からタンパク質機能を予測

ProtNLM(Protein Natural Language Model)は、Google が開発した深層学習モデルで、アミノ酸配列の根底にある進化的な「文法」を読み取り、生のタンパク質配列から直接生物学的機能を予測するように訓練されています。これは、これまで名前が付けられていなかった何百万もの UniProt エントリに、高信頼性の機能ラベルを付与するために使用されています。

このモデルの注釈範囲は、タンパク質名、機能コメント、細胞内局在、GO タームに加え、キーワードもカバーしています。パイプラインでは、入力されたタンパク質配列は、機能注釈のために sequence-to-sequence トランスフォーマーを通過し、その後、配列類似性や構造類似性などの裏付けとなる証拠を追加する「エビデンサー」パイプラインが続きます。世界有数のタンパク質配列および機能情報の公開リソースとされる UniProt には、ゲノムシーケンシングプロジェクトから直接転送された機能未知の配列が数百万件保持されており、ProtNLM はこのギャップを埋めるように設計されています。

ウォークスルー:Streptococcus pseudopneumoniae における候補の発見

セッションは、Streptococcus pseudopneumoniae における新規 AMP を発見し、計算的に検証するという焦点を絞った生物学的目標から始まりました。研究者は科学的戦略を指揮し(どの質問をするか、どの証拠を収集するかを決定)、エージェントはデータベース横断的なオーケストレーション、構造解析、文献統合を処理します。投稿内のスクリーンショットでは、モデルが「Gemini 3.8 Flash」として選択されていることが示されています。

ステップ1 — 広大な検索空間のナビゲート

エージェントは UniProt をクエリし、数百万のエントリを絞り込んで、いくつかの候補を抽出しました。Lactococcin 972 ファミリーに属する、97アミノ酸長のバクテリオシン(UniProt ID A0A0U0D591)を表面化しました。

ステップ2 — 新規性の検証

発見が新規であることを確認するため、研究者はエージェントを導いて、EMBL-EBI NCBI-BLAST サービスを介して Swiss-Prot のキュレーションされた知識に対して候補を照会させました。その結果、このペプチドには、手動でレビューされたタンパク質の中に有意な配列ホモログがないことが確認されました。

ステップ3 — 3D構造に基づく推論

エージェントは、AlphaFold タンパク質構造データベースから候補の3Dモデルを取得し、実験的に決定された構造に対してクエリして遠縁のホモログを特定し、モデルを重ね合わせて類似性を評価しました。構造的証拠は ProtNLM の予測を裏付けました。候補のフォールドは、実験的に決定されたバクテリオシンと密接に一致します。Antigravity の構造ビューアを使用すると、この構造解析を1か所で実行できます。

ステップ4 — ゲノムコンテキストの解読

エージェントは、周囲の機構が AMP 仮説を支持するかどうかをテストするために、候補のゲノム近傍を調査しました。これまで特徴付けられていなかった候補が、密に結合したオペロンの上流、ABC トランスポーター透過酵素とその可能性のあるパートナーである ATP 結合タンパク質のわずか6塩基対上流に位置し、別の注釈付きバクテリオシンと XRE 転写調節因子も隣接していることを発見しました。この投稿では、これは候補が機能的なバクテリオシンシステムの一部であるという強力な文脈的証拠であると述べています。

ステップ5 — 機構的仮説の構築

既存の文献をレビューして、エージェントは細菌の細胞分裂を標的とする作用機序と、いくつかの薬剤耐性病原体に及ぶ予測効力スペクトルを提案しました。

ステップ6 — ウェットラボ計画の生成

エージェントは、in silico の調査結果を、タンパク質発現、抗菌薬感受性試験、標的結合、in vitro 毒性試験を含む実行可能なベンチプロトコルに変換しました。この候補は、同じパイプラインを通じて発見された他のいくつかの候補とともに、現在ウェットラボでの検証が進められています。

Biomolecular Structure Viewer

タンパク質の3D構造はその生物学的機能の説明に役立ち、候補の予測フォールドを空間的に調べることはワークフローの重要な部分です。Biomolecular Structure Viewer は、Antigravity に直接組み込まれた3D可視化ツールであり、このエンドツーエンドのワークフローが単一のワークスペースで完結します。

研究者とエージェントは共有された視覚状態で作業します。エージェントが AlphaFold データベースまたは科学者自身の予測から構造を取得すると、ビューアを動的に操作できます。たとえば、主要な機能領域を強調表示して、仮説を視覚的に説明できます。認識は双方向に流れます。特定の残基を強調表示したり、結合ポケットに直接メモをピン留めしたりするアクションは、エージェントに同期されます。研究者は3D空間で関心領域をマークし、たとえば「このβストランドは Lipid II 結合にどのように影響するか?」と尋ねることができ、エージェントは科学者が見ている正確な構造コンテキストに基づいて推論します。

これが置き換えるもの

歴史的に、このワークフローのような洞察には、断片的で専門的なソフトウェアが必要でした。データベースをクエリするためのカスタムスクリプトの作成、3Dモデリングプログラムへのファイルの手動エクスポート、接続されていないゲノムツールの管理、ウェットラボアッセイの設計のための複数の専門家との協力などです。ウェットラボでの検証は依然としてリソースを大量に消費するため、検索空間を事前に最も信頼性の高いリードのみに絞り込むことが重要です。Antigravity は、このエンドツーエンドの科学的推論を1か所で実行し、科学者が高品質の仮説の評価、実験の実行、研究課題の解決により多くの時間を費やせるようにすると提示されています。

注意点と範囲

Google DeepMind は、ウォークスルーで発見された候補は、構造的およびゲノム的証拠に裏付けられた生物学的に妥当なリードであるが、依然としてウェットラボでの検証が必要であると明確に述べています。セッションは Streptococcus pseudopneumoniae の狭いアミノ酸ウィンドウに焦点を当てていました。投稿では、研究者は会話を他の方向に進めることができると述べています。たとえば、新しいフィルタリング基準を追加したり、異なる配列長を探索したり、他の優先病原体を標的にしたりできます。ヒト共生菌から環境微生物などへ検索を広げることは、エージェントを UniProt 全体に導き、大規模に新規 AMP 候補を発見する方法として説明されています。

発表では、ベンチマーク数値、ヒット率、検証結果は報告されていません。ウェットラボの結果はまだ保留中であり、エージェントの分析の最終的なテストを提供すると説明されています。

Sources