W Socialと欧州のデジタル主権を巡る論争
欧州の機関がクローズドソースのインフラへ移行
欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、およびそれぞれの総裁であるUrsula von der Leyen氏とChristine Lagarde氏を含む、著名な欧州の公的機関が、ATprotoアカウントをBluesky PBCからW Socialへ移行しました。この動きは、W Socialがスウェーデンの起業家によって管理される営利目的の民間企業であるため、議論を呼んでいます。これは、Blueskyのオープンソース的な性質から、最近クローズドソース化したプラットフォームへの転換を意味します。
ATprotoインデックスのclearsky.appによる証拠は、これらの注目度の高いアカウントがW Socialのサーバーに移動されたことを裏付けています。この移行は、W Socialが2026年3月頃に公開GitHubリポジトリ(w-social-eu/w-social-atproto)を削除し、通知なしにコードへの公開アクセスを停止したことを踏まえると、特に顕著な動きです。
EUのテック主権戦略における矛盾
W Socialへの移行は、2026年6月3日に発表された欧州委員会の「Tech Sovereignty Package」と矛盾しているように見えます。このパッケージの核心的な柱は、オープンソースを通じてデジタル自律性を強化することであり、具体的にはオープンソースの代替手段を拡大し、公的機関での使用を支援することを目指しています。
機関のデータをW Social(クローズドソースの営利団体)へ移動させることで、欧州委員会は、オープンソースソフトウェアを通じてデジタル自律性を高めるという掲げた目標に反し、実質的にオープンソースプラットフォーム(Bluesky)からプロプライエタリなプラットフォームへと移行してしまったことになります。
デジタル主権における技術的ギャップ
ATprotoエコシステム内で完全なデジタル主権を達成するためには、プロバイダーは単なるPersonal Data Server (PDS)以上のものをホストする必要があります。完全な主権スタックには以下が必要です:
- Personal Data Server (PDS): ユーザーアカウント、投稿、およびアイデンティティキーを保存します。
- Relay: AppViewsのためのメッセージを集約します。
- AppView: 検索エンジン用にデータをインデックスします。
- Moderation Service: ブロック、ミュート、およびラベルを管理します。
- PLC (Public Key Infrastructure): ユーザー名を公開アイデンティティにマッピングします。
W Socialはユーザーデータを欧州内でホストしていると主張していますが、そのRelay、AppView、またはModeration Serviceが欧州内で自己ホストされているのか、あるいは依然としてBluesky PBCのインフラに依存しているのかについては、透明性のあるロードマップを提供していません。
「欧州のビッグテック」と監視への懸念
Small Technology FoundationのAral Balkan氏を含む批判者たちは、W Socialが真に倫理的な代替案ではなく、「欧州のビッグテック」モデルを代表している可能性があると主張しています。懸念は主に2つの領域に集中しています:
アイデンティティ検証と監視
W Socialは、ボットや誤情報の対策としてアイデンティティ検証を要求します。これはEU内でのアイデンティティ検証の広範な動きと一致していますが、批判者たちは、これが欧州内での監視の強化と「監視資本主義」につながることを恐れています。
ビッグテック幹部とのつながり
W Socialのアドバイザリーボードには、グローバルなビッグテックやアイデンティティ関連企業と深い関わりを持つ人物が含まれています:
- Yariv Adan: Alphabet (Google)の元AIリード。
- Marc Placzek: PayPalの元Chief Privacy Officerであり、現在はTools for Humanity(Worldcoinの背後にある企業)のChief Privacy Officerを務めており、グローバルなIDおよび虹彩スキャン検証に注力しています。
代替案:Euroskyプロジェクト
非営利団体のModal Foundationによって運営されるEuroskyというオープンソースの代替案が存在します。W Socialとは異なり、Euroskyは透明な開発ロードマップを持ってオープンに構築されています。Euroskyの最近の成果には、did:plcディレクトリのミラーリング、欧州のインフラ上で動作するfirehoseの確立、およびBlueskyアプリの完全な代替としてのmu.socialの立ち上げが含まれます。